蓄音器コンサート２
明日館蓄音器コンサート
蓄音器とオリジナル音源で味わう歴史的名演
「今のピアノとはこれだけ違う！
ピアノ黄金期の世界的銘器の音色」
～ 約１００年前のピアノメーカー１２社の音色聴き比べ ～
スタインウェイ ベヒシュタイン ブリュートナー エラール プレイエルなど
２０世紀前半のピアノ黄金期を代表する世界的ピアノメーカー１２社の音色を
当時の巨匠ピアニスト達の歴史的名演で聴き比べて頂きます
CDで聴く音とは全く違う約１００年前の最高級アコースティック蓄音器と
オリジナル音源による生々しいサウンドも是非お楽しみください
解説： 梅岡俊彦 （古典鍵盤楽器技術者）
松原聡 （ピアニスト・ピアノ研究家）
蓄音器： ＥＭＧ markⅨ １９３０年英国製
２０２５年 ８月２１日（木） １８時３０分 開演 （１８時開場）
会場 自由学園明日館 Room１９２５（1921年建築 重要文化財） 地図 アクセス
東京都豊島区西池袋2-31-3
料金 ２５００円 （当日清算） 要予約 限定２５名
予約・お問い合せ 梅岡 umeoka-gakki@nifty.com メールでお申込みください
～～ プ ロ グ ラ ム ～～
＜ アメリカ ＞
■ クナーベ (Wm.Knabe.Co.) 1837年創業
演奏：レオポルト・ゴドウスキ（1870～1938） ショパン：華麗なる大円舞曲Op.18変ホ長調
使用盤：アメリカBurunswick 50015 (1922年アメリカBurunswick社録音) ※旧吹込み・12インチ片面
■ ボールドウィン (Baldwin) 1862年創業]
演奏：ヴラディーミル・ド・パハマン（1848～1933） ショパン：ノクターンOp.32-1 ロ長調 ※自身のコメント入り
使用盤：イギリスHMV DB859 (1925年イギリスHMV社録音)
■ ニューヨーク・スタインウェイ (Steinway & Sons) 1853年創業
演奏：パーシー・グレインジャー（1882～1961） ショパン：プレリュード 第１７番変イ長調 Op.24-17
使用盤：イギリスColumbia L1805 (1926年4月1日アメリカColumbia社録音) ※12インチ片面
＜ ドイツ ＞
■ ハンブルク・スタインウェイ (Steinway & Sons) 1853年創業（1880年操業）
演奏：ラウル・コチャルスキ（1885～1948） ショパン：華麗なる円舞曲 変イ長調Op.34-1
使用盤：ドイツPolydor 67247 (1938年6月28日ドイツPolydor社録音) ※12インチ片面
■ イバッハ (Rud. Ibach Sohn) 1794年創業
演奏：ウィルヘルム・バックハウス（1884～1969） ショパン：ポロネーズイ長調Op.40-1「軍隊」
使用盤：ドイツSchallplatte Grammophon 65463 (1916年ドイツ録音) ※旧吹込み・12インチ片面
■ グロトリアン＝シュタインヴェーク (Grotrian-Steinweg) 1835年創業
演奏：ワルター・ギーゼキング（1895～1956） グリーグ：抒情小品集第８集より 「トロルドハウゲンの婚礼の日」 Op.65-6
使用盤：日本Parlophone E15178B (1927年ドイツHomochord 社録音) ※12インチ片面
■ ブリュートナー (Bl?thner) 1853年創業
演奏：モーリッツ・ローゼンタール（1862～1946） ショパン：エチュードOp.10-5「黒鍵」＆マズルカOp.63-3嬰ハ短調
使用盤：アメリカDecca 25268 (1931年3月3日ドイツParlophone/Odeon社録音) ※12インチ片面
■ ベヒシュタイン (C.Bechstein) 1853年創業
演奏：エミール・フォン・ザウアー（1862～1942） ショパン：エチュード ホ長調Op.10-3「別れの曲」
使用盤：ドイツOdeonＯ-7835a (1928年12月14日ドイツParlophone/Odeon社録音) ※12インチ片面
＜ オーストリア ＞
■ ベーゼンドルファー(B?sendorfer) 1828年創業
演奏：モーリッツ・ローゼンタール（1862-1946） ショパン：マズルカ Op.33-4ロ短調
使用盤：日本Victor JD-924 (1935・6年イギリスHMV社録音)
＜ フランス ＞
■ ガヴォー (Gaveau) 1847年創業
演奏：マルセル・シャンピ（1890～1980） リスト：ハンガリー狂詩曲第11番（一部省略）
使用盤：日本Columbia J8019 (1931年7月1日フランスColumbia社録音)
■ プレイエル(Pleyel) 1807年創業
演奏：マリウス・フランソワ・ガイヤール（1900～1973） ドビュッシー：ロマンティックなワルツ
使用盤：フランスOdeon171.105 (1930年6月6日フランス録音) ※12インチ片面
■ エラール (Erard) 1780年創業
演奏：フランシス・プランテ（1839～1934） ショパン：エチュード嬰ハ短調Op.10-4
使用盤：フランスColumbia D15091（1928年7月3,4日ﾓﾝ･ﾄﾞ･ﾏﾙｻﾝ､ﾌﾟﾗﾝﾃ邸出張録音） ※12インチ片面
ピアノメーカー解説
＜アメリカ＞
■ クナーベ(Wm.Knabe.Co.) 1837年創業（アメリカ）
アメリカを代表する名器として知られるクナーベの創業者、ウィリアム・クナーベは1803年ドイツ・クロイツベルクに生まれ、大学まで行き、優秀な成績を修めたが、ピアノの製作技術を志し、修業して腕を磨いた。そして30歳の時にアメリカに移住し、南部のボルティモアで1837年に創業しました。当初は共同経営者ガエールがおり、1854年ガエールの引退後は独自で事業を拡大し、1861年頃には南部の代表的メーカーとなりましたが南北戦争で荒廃した後、後継の2人の息子達の手で19世紀末までに最盛期を迎えました。その特徴は「シンギングトーン」と言われる、アメリカピアノ中で最も美しい音色で、世界各地での博覧会で最高賞に輝き続けて名声を確立。ハンス・フォン・ビューロー等の歴史的巨匠がこよなく愛用しました。クナーベは、明治政府が招いた外国人教師メイソンが持参し、近世日本で最初のピアノであると共に、大正時代に、世界的巨匠レオポルト・ゴドウスキが2台のクナーベと調律師と共に来日し、日本各地でリサイタルを行い、鮮烈な印象を残した事が記録されています。
■ ボールドウィン(Baldwin) 1862年創業（アメリカ）
ボールドウィン社はアメリカの代表的なピアノメーカーの一つとして知られ、アメリカにピアノを普及させた立役者と言えるでしょう。スタインウェイやクナーベがドイツからの移民だったのに対し、ボールドウィンは純粋なアメリカピアノと言えましょう。1862年にシンシナティで音楽教師D.H.ボールドウィンが創業。ただ当初は教師業の傍らにピアノ販売も行う業態で、1873年に会社を設立してピアノ販売を、1891年にピアノ製造を開始。彼は後に自社ピアノを「普通の人々が真面目に働き、理想を追求した結果として生み出されたもの」と評しました。1899年彼の死去後、敬虔なキリスト教徒の彼は、資産を遺言で教会に寄付してしまい、倒産の危機に瀕した時、経理担当のルシアン・ウルシンが、ジョージ・アームストロングと共に会社と在庫を買い取り、存続へと至ったのである。彼らのボールドウィンピアノは1900年パリ万国博覧会でグランプリを受賞。1920年代にはアメリカの代表的メーカーとして名声を確立。ボールドウィンを愛用した音楽家はプーニョ、パハマン、ボレット、バーンスタイン等がいます。
■ スタインウェイ (Steinway & Sonsニューヨーク・ハンブルク) 1853年創業
"世界のピアノの代名詞"と謳われるスタインウェイは、創業者ハインリッヒ・エンゲハルト・シュタインヴェークが苦しい修業の末に彼と息子たちが築き上げたもので、ドイツのゼーゼンの自宅の台所で第1号のピアノを完成させたのを皮切りにメーカーとしてスタートし、1842年に政情不安や関税の問題から一家でアメリカへ移住し、1853年ニューヨークで創業します。 "スタインウェイ"とは"シュタインヴェーク"を英語名です。翌年のワシントンの博覧会での金賞を皮切りに、急激な発展を遂げます。スタインウェイの革新的な構造によって現代ピアノが確立されたと言っても過言ではありません。1875年にロンドン支店とホールを、更に1880年ドイツ･ハンブルク工場を開設し「ハンブルク･スタインウェイ」が生産開始。名声を確立しました。現在はニューヨークとハンブルグで製造され、世界中のコンサートステージの98%以上で活躍しています。歴代のスタインウェイ・アーティストには、ルビンシテイン、パデレフスキ、ホフマン、ラフマニノフ、ホロヴィッツ、ルービンシュタイン、グールド等の名が並びます。
＜ドイツ＞
■ イバッハ(Rud. Ibach Sohn) 1794年創業（ドイツ）
かつて、ドイツ最古の歴史を誇ったイバッハは、ヨハネス・アドルフ・イバッハによって1794年に創業しました。彼は1766年にリュットリンクハウゼンで生まれました。彼はドイツ中のオルガンとピアノのメーカーを訪ね歩き、様々な技術を学び取りました。ナポレオン戦争真っ只中の時代に、イバッハは親子３人で空腹に耐えながら古今の名器を生み出して繁栄の基礎を築きます。２代目カール・ルドルフ、３代目ルドルフ・ジュニアの時代に名声を確立します。各地の博覧会で数多くの賞を得て、皇室・王室御用達となり、ワーグナー、リスト、ザウアー、レーガー等の大音楽家が愛用し、芸術的デザインのピアノのコンペティションを開く等の功績があります。現在の本社はデュッセルドルフ近郊シュヴェルムにあり、７代目の当主ですが、時代の波に翻弄され、2007年12月に製造を打ち切り、現在はかつてのピアノのサポートを行っています。イバッハは無限の耐久性があると言われ、ピアノのロールスロイスとも言われました。かつてワーグナーとリストが使用したイバッハが現存し博物館に保存されています。
■ グロトリアン＝シュタインヴェーク(Grotrian-Steinweg) 1835年創業（ドイツ）
スタインウェイの創業者ハインリッヒ・シュタインヴェーグの愛弟子フリードリッヒ・グロトリアンと、ハインリッヒの長男テオドールが1835年にドイツ・ブラウンシュヴァイクで創業しました。1839年のブラウンシュヴァイクの博覧会で金賞を獲得し、ピアノメーカーとしての名声を確立。彼は卓越したハインリッヒとテオドールのノウハウを踏まえて行った構造的革新は、現代ピアノの確立へ結実します。やがて、テオドールはアメリカへ移住して多忙となったハインリッヒの工場に呼ばれ、グロトリアンを筆頭とする３人の弟子（グロトリアン・ヘルフェリッヒ・シュルツ）に会社を売却し、グロトリアン＝シュタインヴェーク（現：グロトリアン）となりました。その特徴は、最高の音響特性を持つ響鳴板をバランスよく組み合わせて造られるホモジュナス・サウンドボード、堅牢さを誇るアップライト背面のＸ型支柱構造で知られ、特にアップライトは世界一の折紙が付けられます。グロトリアンは、シューマンの妻クララや、ギーゼキング、ケンプ等、古今の巨匠達に愛され続け、世界の代表的メーカーで在り続けています。
■ ブリュートナー(Bl?thner) 1853年創業（ドイツ）
ドイツの世界的名器でベヒシュタインを西の横綱とすれば、その双璧、東の横綱はブリュートナーと言えます。1853年ライプツィヒでユリウス・フェルディナンド・ブリュートナーが創業しました。彼は驚異的な耳を持ち、整音技術は他の追随を許さなかったと言われます。ライプツィヒは、バッハが活躍した聖トーマス教会、ゲヴァントハウス管弦楽団、メンデルスゾーンが創立したライプツィヒ音楽院等の芸術的環境に恵まれ、彼のピアノは、友人リストやワーグナー等の助言のもとで研究、改良を重ねて完成して行きました。1867年パリ万国博覧会の1等賞等、各地で多くの賞を受けて名声を確立し、各国の王侯貴族の御用達に指定されました。そしてリスト、ドビュッシー等に愛用され、ライプツィヒ音楽院へも納入され、学生や卒業生達も世界中な名声の一助となりました。1872年、中高音部に4本目の響鳴弦を張って倍音を増して、芳醇な音色・音量を可能にした有名なアリコートの特許を取得し、世界の代表的メーカーへ発展しました。現在は創業者のひ孫により運営され、名声を保ち続けています。
■ ベヒシュタイン(C.Bechstein) 1853年創業（ドイツ）
ドイツの誇る世界屈指のピアノメーカーであるべヒシュタイン社の創業者カール・ベヒシュタインは1826年ゴータに生まれ、ペロー社を経た後、ドイツに世界的名器をもたらすという強い志を持ってイギリス・フランスで修行し、パリで第一人者アンリ・パペの徒弟として当時の最先端の製造技術を学び、同じくプレイエルやクリーゲルシュタインの工場を経てベルリンへ戻り、1853年に創業しました。その第1号のアップライトを1人で9ヶ月かけて作り上げました。 イギリスピアノの力強いトーンにフランスピアノの素早い反応のアクションを組合せ、強靭な耐久性とフランスピアノの甘く優美な音色のピアノを製作し、ロンドン、パリ等各地の博覧会で幾多の賞を得て名声を確立し、第二次世界大戦までに"世界最高のピアノ"として世界のコンサートの舞台を席巻しました。ベヒシュタインを愛用した大家には、リストや弟子のビューローを始め、ドビュッシー、シュナーベル、ケンプ、ボレット等がおり、創業から160年が経った今も "ベヒシュタイン・トーン"と呼ばれる伝統的な美しい音色を受け継いでいます。
＜オーストリア＞
■ ベーゼンドルファー(B?sendorfer) 1828年創業（オーストリア）
スタインウェイ・ベヒシュタインと並んで世界三大ピアノと呼ばれるベーゼンドルファーは、創業者イグナッツ・ベーゼンドルファーによって、シューベルトの没年と同じ1828年にウィーンで創業し、1830年にオーストリア宮廷御用達となります。その重厚感と甘美なウィンナトーンを漂わせる魅力的な音色は、多くの皇室・貴族の御用達となり、リスト、ザウアー、イタリアの伝説的ピアニスト、ブゾーニ、バックハウス等、古今の多くの音楽家に愛用されました。1869年には、当時オーストリア皇帝から明治天皇への献上品として豪華なアートケースが贈られました。特徴として、弦の高い張力の華麗な音色の他に、広い音域を持ち、モデル２２５で９２鍵、モデル２９０"インペリアル"では９７鍵盤を誇ります。創業以来、熟練した技術者による一貫した手作業にこだわり続け、手作業の塗装と研磨によって作り出される美しいフレームや、１台のピアノに８００～１０００時間を必要とし、その調律、整音と最終調整にほぼ同じ時間を必要とするためと言われています。ピアノのロールスロイスといわれる由縁です。
＜フランス＞
■ エラール(Erard) 1780年創業（フランス）
エラールの創業者セバスチャン・エラールは、1752年にラスブルグで生まれ、16歳の時に家具職人となり、やがてパリで修業を積み、驚異的な技術力と向上心で名声を得て、紆余曲折の末、卓抜した社交力を発揮して、時のフランス・ブルボン王朝のマリー・アントワネットの「宮廷御用達ピアノ製造業者」としてパリにピアノ工房を構え、多くのピアノを製作します。しかし、フランス革命が起こり、宮廷側の人物だったエラールは直ちにロンドンへ渡って 成功を収めて1796年にパリに戻り、名実共にヨーロッパ最高のピアノメーカーへとなりました。 エラールはピアノ史上最も重要な発明「ダブル・エスケープメント・アクション機構」は打鍵した鍵盤が戻る前に次の打鍵が可能になった事により、敏速な連打奏法が可能となり、ピアノの発展と近代化に大きく貢献しました。 エラールは、ベートーヴェンやリスト、その他多くの歴史的作曲家やピアニストたちに愛用されました。様々な事情から紆余曲折を経て1994年に発足した「フランスピアノ製造会社」で一時期生産されましたが、現在は製造されていません。
■ プレイエル(Pleyel) 1807年創業（フランス）
フランスを代表するブランドの一つプレイエルは、ハイドンの弟子でもあった作曲家イグナッツ・プレイエルによって1807年にパリで創業しました。1813年に息子で2代目のカミーユに経営権を譲り、飛躍的な事業の発展を遂げました。彼は多くの芸術家たちと親しく、友人で当時のピアニストの第一人者カルクブレンナーと共に、1829年Pleyel & Co.を設立しました。同時期、名高いホール「サル・プレイエル」を開設して、終生プレイエルを愛好した親友ショパンをはじめ、歴史的音楽家達がこぞって演奏会を開いてプレイエルを使用して絶賛し、その発展と黄金時代を迎えました。20世紀初頭には、ランドフスカのためにモダン仕様のクラヴサンを制作し、古楽復興のシンボルとなりました。その後の紆余曲折を経て、1994年に発足した「フランスピアノ製造会社」でエラール・プレイエル・ガヴォーの3ブランドを生産し、2007年に華々しく創業200周年を祝いましたが、現在は製造されていません。他にプレイエルを愛用した音楽家にはサン＝サーンス、グリーグ、ドビュッシー、プーランク、コルトー等がいます。
■ ガヴォー(Gaveau) 1847年創業（フランス）
フランス3大ピアノに数えられるガヴォーは、ヨーゼフ・ガブリエル・ガヴォーによって1847年にパリで創業しました。彼はパリのいくつかの工房で修行し、23歳でヴィネグリエ通りに工房を構えた初期から、エラールを手本とした質の高いアップライトピアノ製作を行い、独自に"ガヴォー・アクション"を開発しました。彼の6人の息子もピアノ製作に身を投じてガヴォーを盛り立て、セヴェラン通りに工場を設立。1893年に息子ガブリエル、ウジェーヌ、エティエンヌが継承し、3年後にはパリ近くフォントネイの新工場に移転し、300人の職人で年間2000台を製造するまでになります。エティエンヌは、本社をパリの中心にあるボエティエ通りに構えて1908年に名高いホール「サル・ガヴォー」を開設。数多くの音楽家が来演してその名声を高め、1920～30年代には最盛期を迎えましたが、戦後の衰退や様々な紆余曲折を経て1994年に発足した「フランスピアノ製造会社」で一時期生産されましたが、現在は製造されていません。ガヴォーを愛用した音楽家には、サン＝サーンス、ロン、ロルタ、シフラ等がいます。